「アラディア
トスカーナの森の城に行きなさい。
貴方にタロットカードを教える女性を
呼びましたので、習って来なさい。」
私の母…
月の女神ディアナは私を呼び出すなり
いきなり言ったので驚いて
「え?森のお城にタロットカードの先生が
いらっしゃるのですか?」
私は嬉しくて聞き返してしまいました!
「アラディアがあの森の城が好きなのは
ずっと前から知っていましたよ。」
そう言って
母は優しく
微笑みました
そして
「これをその先生に渡して下さい。」
そう言って小さな箱を差し出しました。
私は箱を受け取りながら…
「これは…何が入っているのですか?」
何か不思議な
予感がして聞きました。
「等価交換ですよ。」
母は静かだけど強い口調で答えました。
…でも言葉の意味を知らなかったので
「等価交換?」
母の言葉を繰返しました。
「そう…
等価交換です。
等価交換の本当の意味も
一緒に習いに行きなさい。」
その言葉の意味も習う…?
私の心の何かが衝動の様な物を感じ…
「わかりました!
直ぐに準備をして行ってまいります!」
私はこれから起こる事が
楽しみで
待ちきれなくて
身も心も走り出して
いました!!
走り出した私の背中に向かって母は
「アラディア!
私も楽しみに待ってます!」
母の声に何故か嬉しさが込み上げて来て…
「お母様!ありがとうございます!」
一瞬だけ振り返って母の顔を視た時に、
少し淋しそうだけれど不安そうな笑顔
と感じました。
なのに何故「私も楽しみに待ってる」と…
母は言ったのか…
その時は知る由も無かったのです。
天界から
この星に
降りる時は
ただ念じるだけで
思う場所に行く事が出来るのですが…
久し振りに森に行くので
城には直接行かずに森の中に降りました。
精霊たちの歓迎を
受けながら
とても幸せな気持ちになっていました
「やっぱりこの森は大好き~」
そして…
目的の城を見付け…
赤い炎の様な髪の女性が
こちらに向かって歩いて来くのに
気付きました
母と同じ位の年齢の女性に見えました。
(母は年齢不詳ですが…)
私は走り寄り…
「初めまして!アラディアです!」
私は初めてではない
…と、何故か
判っていながら挨拶してしまいました。
微笑みながら…
「アラディア様、お待ちしてました。」
静かな美しい声で迎えてくれました。
黒では無いとても深くて濃い青い色で
飾り気の無いシンプルなドレスを着て
とても長い髪は赤い炎の様な色で美しく
見とれてしまいました
「あの…髪が…
とても美しい髪の色ですね!」
あ…
この炎の様な色の髪…覚えているわ…!
でも、記憶の中では少女でした
気が付くといつの間にか現れた
二人の若い女性が…
「アラディア様、
お荷物をお持ち致します。」と
微笑みながら言って手を差し出しました。
そして
「アラディア様、お入り下さい。
お話は部屋の中でしましょう。」
赤い炎の色の女性は招いて下さいました。
その女性の
後ろを
歩きながら…
…少しづつ
…少しづつ
思い出して涙が溢れる…
自分の記憶の言霊が溢れる…
「 … Fiamma ?」
女性は振り返り…
「…そうです!
フィアーマですわ…!
アラディア様…本当に嬉しいです。
思い出して頂けたのですね!」
その目の前の美しい女性は私の記憶に
残っていた少女だったのです。
その少女はこの森に暫く住んでいて
森の精霊たちや花の妖精たちと
一緒に遊びました
でも…
いつの間にか旅に出てしまった…。
私は記憶を辿ろうとしてましたが…
何故、急に旅に出てしまったのか。
その理由は記憶には残って無く…
悲しくて淋しかった心の記憶だけでした。
少女には精霊たちも妖精たちも視えていて
普通の人間とは違っていました…。
気が付くとドアを空けて
「この部屋にお入り下さいませ」
フィアーマは振り返り私の顔を見ると
微笑みました
部屋の中はとても静かで
落ち着いた基調の
綺麗な家具などが揃っていました。
通された部屋の椅子に座ると
フィアーマは微笑みながら
私の瞳を覗き込み…
ゆっくりと私の疑問に答えてくれました。
「アラディア様、
私は人間なので年をとります。
ディアナ様たちの様に思った年齢で止まり
永遠の命では無いのです。
だから、アラディア様はそのままでも
何年も過ぎていて今の私の姿なのです。」
私は頷き…
「人間の寿命…知っています。
年を取り…いずれ…命の終わりが有るのも。
フィアーマは人間なのですね?
いつか…
いつか死ぬのですね…。」
私は複雑な気持ちで言いました。
「そうです。
生きていて年月が過ぎると
命が終わる時…つまり死が訪れる。
だからこそ、
約束事が沢山有るのです。」
私は『約束』と言う言葉で思い出して
「フィアーマさん!
母から貴方に渡すようにと
これを預かって来ました!」
ディアナから預かった箱を渡しました。
フィアーマは少しだけ緊張した表情になり
「ありがとうございます。」
静かにフィアーマは箱を受けとると
ゆっくり蓋を空けて
はっ…としたような瞳から涙が溢れ…
中を暫く見つめていました。
そして静かに…
大切そうに
中の物を取り出しました。
私はフィアーマが取り出した物を視て
とても驚きました!
それは…お母様のいつも身に付けていた
アクアマリンと真珠の指輪だったのです。
そう…
私の記憶の底に在る程昔から
母がいつも身に付けていた指輪でした…
静かにフィアーマは私の方に視線を向けて
「アラディア様…
私がディアナ様のこの指輪を
受け取るならば…
そのディアナ様の願いに応える
相応な覚悟が必要ですね…!」
フィアーマの瞳は
強い視線に変わっていました
私はここに来た目的は単に
タロットカードを習う事ではなく…
もっと私の世界が変わってしまう程の事が
起こるのだと感じていました
それでも…凄く楽しみで
期待に心は高鳴っていました……
2017,6,20